2014年3月9日日曜日

ウクライナ問題:注目すべきは中国の出方、軍事技術は吸収し尽くし、兵器開発への影響は限定的

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●3月5日、緊張が続くウクライナ情勢をめぐり各国が異なる反応を示す中、長期的な視点で考えた場合、最も重要となるのは中国の出方だろう。写真は昨年12月、ウクライナのヤヌコビッチ大統領(当時)と握手する習近平国家主席。代表撮影(2014年 ロイター)


ロイター 2014年 03月 7日 12:51 JST
http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPTYEA2603320140307

コラム:ウクライナ問題、注目すべきは中国の出方

[ロンドン 5日 ロイター] - By John Kemp

 緊張が続くウクライナ情勢をめぐり各国が異なる反応を示す中、長期的な視点で考えた場合、最も重要となるのは米国でも欧州連合(EU)でもなく、中国の出方だろう。

 ウクライナ問題に対する中国のこれまでの反応は例によって控えめなものだが、指導部はロシアの介入を静かに支持し、米国やEUによるロシア孤立化の試みには加担しないようにしている。

 中国の人民日報は、欧米諸国はウクライナへの影響力を行使しようとしており、「冷戦時代の思考」にとらわれていると批判した。

 ロシア政府によると、プーチン大統領と中国の習近平国家主席はウクライナ問題をめぐり電話会談を行い、互いの見解が近いことを確認した。

■<欧米への恐れ>

 ロシアと中国の両方にとって最も重要な外交関係は、圧倒的な軍事力と経済力を誇る米国との関係だ。
 影響力の低下は続いているものの、米国は今も、世界中で軍事力を行使できる唯一の国だ。
 金融・経済の最も重要な中心地であり、「ソフトパワー」はどの国よりも強力で、同盟ネットワークは全大陸に広がっている。

 ロシアと中国はいずれも、対米関係は「協調」や「相互利益」と同時に、「対立」と「競争」に特徴づけられる。
 両国とも、米政府や同盟国の意図を懸念する理由がある。

 ロシアが懸念するのは、米国とEUが単一市場と北大西洋条約機構(NATO)を拡大し続け、ロシアが主張する旧ソ連圏での「特権的利益」を認めようとしないことだ。

 中国が指摘した通り、米国と欧州ではエリート層の多くに「ロシア恐怖症」が根強く残っており、それが外交関係をこじらせ、和解よりも対立を後押しする要因になっている。

 一方で中国は、米国と米同盟国による包囲網を警戒している
 。中国指導部は「平和的成長」戦略を進めているが、軍事力と経済力の拡大は米国との対立や競争を引き起こし、中国による領有権主張や防空識別圏設定、海軍の増強、人権問題などをめぐって緊張は高まっている。

 こうした問題で米国は多くの場合、中国と領有権をめぐり対立する日本、韓国、フィリピン、ベトナムなどを暗黙のうちに支持している。

 米太平洋艦隊の情報部門の統括責任者は、最近行われた米海軍の会合で、中国海軍が
 「東シナ海で日本の部隊を壊滅させるための短期集中的な交戦」
に向けて訓練をしているとし、
 「尖閣諸島の奪取を想定しているとしか考えられない」
と指摘した。

 日本は米国にとって、東アジアでの最も重要な同盟国だ。
 両国の間には安全保障条約があり、沖縄には多くの米兵が駐留している。
 日中間で衝突が起きれば、米国の関与は避けられない。

 英フィナンシャル・タイムズによると、同責任者は、中国の海洋進出を「米太平洋艦隊への対抗が主な目的」だと指摘。
 「人民解放軍は海上戦に関する情報を得るために海に出て行こうとしている」
との見方を示した。

 一方、中国には経済面と軍事面で、他にも脆弱性を抱えている。
 インドとの間では、領有権問題や国際影響力をめぐる競争を背景に緊張が続いている。
 中国と米国はいずれも、アジアでの存在感を高めるためインドとの関係改善に努めてきた。

 また中国は、石油・ガスを中東やアフリカ、オーストラリアからの輸入に依存しているが、供給ルートには米海軍がにらみをきかせる海上交通路も含まれ、この点でも戦略的な脆弱性を抱えている。

■<勢力バランス>

 故事によれば「敵の敵は友人」だが、この言葉は政治力学の原理をうまく表している。

 中国とロシアは米国の敵ではないが、間違いなく同盟国ではなく、域内や世界的な影響力の競争でもライバル的な存在だ。
 中国とロシアはいずれも外交面で比較的孤立しており、米国の対抗勢力を演じるには、新たに非公式な同盟関係を築く必要がある。

 中ロ関係は歴史的にこれまで緊張下にあった。
 毛沢東主席とソ連のフルシチョフ第1書記が1950─1960年代に対立し、両国間に冷戦関係が続いたことは有名だ。

 ロシアが共産圏で指導権を握ることを、中国は受け入れてこなかった。
 米国はロシアと中国の対立を促し、中国と国交を樹立し、ソ連の影響力を抑えるために中国の近代化を支援した。

 しかし歴史的にみても、勢力バランスは、互恵関係よりも利害の一致に基づいている。
 頼れる同盟国というのは、必ずしも好意の持てる存在ではない。

 影響力が大きく低下した現在のロシアは、中国にとってもはや脅威的な存在ではない。
 両国の力関係は同等に近い。
 双方ともエネルギー問題や広範な地政学的戦略において、互いにより緊密な関係を構築する理由がある。

 ロシアはガス輸出先をEU以外に拡大する必要があり、中国は安保状況を改善するため、ガス・石油の供給源を多様化させる必要がある。

 ウクライナ危機を受け、EUはロシアへのガス依存低減を加速させる可能性がある。
 ガス供給元としてのロシアの立場は、アジア市場への輸出を拡大できれば強化されるだろう。

 中国は現在、主に海上輸送で石油と液化天然ガス(LNG)を輸入しているが、供給ルートに問題が生じれば大きな影響を受けることになる。
 パイプラインを通じたロシアからの輸入は調達先の多様化につながり、LNG輸出国に対する交渉力も強まるだろう。

 中国とロシアは過去10年間にわたりガス供給をめぐる協議を重ねてきたが、価格面で折り合えていない。
 ただ、昨年末には合意に近づいたとされている。

 ウクライナ問題は、中国とロシアにとってガス取引の価格以上に重要な意味を持つ。両国の間には、欧米諸国によるシリア介入への反対や民主化推進をめぐる強い不信感など、共通点は多く存在する。

 向こう数カ月や数年の間にロシアと中国の協力関係がさらに強化されたとしても、驚くべきことではない。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。





●google画像から


ロイター 2014年 03月 6日 19:21 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYEA2508520140306/

クリミア議会、ロシア編入案を全会一致で可決=ロシア通信

[モスクワ 6日 ロイター] -
 クリミア議会は6日、ロシアへの編入案を全会一致で可決した。
 ロシア通信(RIA)が伝えた。
 決定文書は「ロシア連邦に入る」ことで合意が成立したとしている。



ロイター 2014年 03月 7日 14:39 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYEA2604Z20140307?pageNumber=1&rpc=223=obinsite

焦点:プーチン大統領の危険な賭け、西側との対立で不測の事態も

[モスクワ 6日 ロイター] -
 ロシアのプーチン大統領が、クリミア自治共和国議会によるロシアへの編入要請決議に至る動きを裏で操っているのはほぼ間違いない。
 しかしこれで西側諸国と真っ向から対立することになったプーチン氏のやり方はますます危険な賭けの様相を呈し、不測の結果を招く可能性もある。

 プーチン氏は、今回の決議でクリミアの掌握という面ではウクライナに対して優位に立った一方、ウクライナの親欧米の指導者から反感を買う恐れがある。
 これらの指導者は、南部や東部のロシア系住民に対してはこれまで武力行使や緊張を高めるような行為を厳に慎んできたのだ。

 ロシアの政治活動顧問を務めたグレブ・パブロフスキー氏は
 「われわれは非常に危うい地点に位置しており、政治危機が軍事的な事態につながる恐れがある」
と指摘した。

 ウクライナの指導者は、ロシア編入の是非について住民投票を16日に実施すると決めたことなどを含めたクリミア側の一連の動きの背後には、プーチン氏がいると確信。
 トゥルチノフ大統領代行は
 「これは住民投票ではなく、ロシアの軍事力によって仕組まれたウクライナに対する茶番、欺瞞、犯罪だ」
と切り捨てた。

 ただ欧米諸国としては、プーチン氏に対して行ってきた主張がそっくり跳ね返ってきたことになる。
 つまり、ウクライナのヤヌコビッチ前大統領の退陣は国民の意思だから受け入れなければならない、と主張してきた以上、クリミア住民の意思も認める必要が出てくる。

 プーチン氏は6日の安全保障会議では泰然自若とした様子で、ロシアの金融市場の混乱やウクライナがクリミアの住民投票は非合法だと主張していることに無関心であるように見受けられる。

 プーチン氏からすれば、すべてのカードは自分が握っていると考えているようだ。

■<支配強化に向けた演出>

 過去数日間にクリミアの支配強化に向けてロシアが見せた動きは、完璧な振り付けがなされていた。

 ウクライナ南部のロシア系住民を西部の「過激派」から守るという名目で、ロシア議会ではロシア語を話す人々への市民権申請手続きを迅速化する法案が提出された。
 これにより旧ソ連時代の1954年、当時のフルシチョフ書記長がウクライナに渡したクリミアを再びロシアが支配する上でより有利な態勢が整った。

 一方、あるロシアの安全保障関係筋は
 「プーチン氏は、戦争を欲していない。
 彼はそうした決定をした場合に起きるあらゆる問題や生じる影響を十分に承知している。
 だがもし事態が悪化の一途をたどったなら、他にどうしようがあるのか。
 武力行使はほかの手段がすべてつぶされた際にのみ検討されるだろうが、取り得る選択肢の1つではある」
と強調した。

■<危険の大きい戦略>

 ロシア専門家は、たとえ黒海艦隊の基地があるといってもプーチン氏がクリミアを併合したがっているかどうかは疑わしいとの見方をしている。

 もっともプーチン氏は、西側諸国がヤヌコビッチ氏の失脚に至った一連の騒乱を主導してきた武装市民を支持していることへの相応の対抗策として、武力行使をちらつかせる可能性があるというのが専門家の声だ。

 プーチン氏はそれによってあらためて自身の権威を確立するとともに、統一経済圏を形成して少なくとも旧ソ連の版図の一部でも再統合しようという夢を将来につなぐことができる。
 これまでのところは、ロシアによる統一経済圏に向けた完全同盟に加わったのはカザフスタンとベラルーシの2カ国しかない。

 それでもこれは危険の大きい戦略だ。

 米政府は、ウクライナの民主的な枠組みに打撃を与えている同国やロシアの一部当局者へのビザ発給禁止といった制裁を発動する対応を示した。
 米国防総省もポーランドにおける大規模な空軍演習を発表し、これについて駐ポーランド米大使は、ウクライナ危機を受けて関係地域における同盟国を安心させるために規模を拡大したと説明した。

 さらにロシアの資産価格が急落して脆弱な経済を圧迫し、通貨ルーブルの下落で多くのロシア国民が窮迫を感じている。
 格付け会社ムーディーズは、ウクライナ問題はロシアの信用力にマイナスだと表明した。

(Elizabeth Piper記者)



ロイター 2014年 03月 7日 16:19 JST
http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPTYEA2605R20140307

コラム:市場が織り込む「プーチン氏の勝利」=カレツキー氏

[6日 ロイター] -
 作家オスカー・ワイルドは、結婚を「経験に対する期待の勝利」だと表現した。
 対照的に、
 金融や地政学において、経験は常に期待に勝り、
 現実主義が希望的観測を打ち破る。

 ウクライナにおけるロシアと欧米の対立は、この好例だと言える。
 この問題を非常に危険な状態にしているのは、米国と欧州連合(EU)の政策が、期待や希望的観測に基づいているように見えることだ。
 ロシアのプーチン大統領が分別を持つか、少なくともロシアの経済利益や側近の個人的資産への制裁を恐れて思いとどまるという期待。
 そして、「民主主義や自由」は必ずや独裁主義や軍事的威圧に打ち勝つという希望的観測だ。

 投資家や企業には、それほどセンチメンタルになっている余裕はない。
 銀行家ネイサン・ロスチャイルドがワーテルローの戦いの際に言った「銃声が鳴ったら買え」という言葉は決して忘れるべきではないが、
 今週のウクライナ情勢に対する市場の反応は、ロシアの勝利を市場が信じていると仮定した場合にのみ理解できる。

 ウクライナがロシアのクリミア半島併合を黙認せず、反撃に出るとすれば、軍事的手段や少数派ロシア系住民への圧力に訴えることになる。
 ただ、その場合、ユーゴスラビアのような内戦に突入することはほぼ不可避で、ポーランドや北大西洋条約機構(NATO)、そして米国も巻き込まれる可能性が高い。

 西側諸国には、ロシアの軍事介入を認めるか本格的な戦争突入以外に選択肢はない。
 なぜなら、プーチン氏が自発的にクリミア撤退を決めるとは考えられないからだ。
 クリミアを力で奪い、今さらそれを放棄するのは、ほぼ間違いなくプーチン大統領の終わりを意味する。
 クリミアが「もともと」自国の一部で1954年に偶発的にウクライナに移管されたというのは、軍・治安当局は言うまでもなく、ロシア国民のほぼ一致した見解だろう。
 実際に多くのロシア人が、その是非はさておき、ウクライナはロシアに「属している」と思っている。

 こうした状況で、欧米の経済制裁を受けてプーチン氏がクリミアを手放すと考えるのは、全くの希望的観測にすぎない。
 歴史を通して、ロシアは地政学的な目標のために、西側からは想像を絶する経済的苦難を受け入れてきた。
 4日の金融市場では、プーチン氏がモスクワ株式市場の急落を受けて軍事行動を一時停止するとの見方が広がったが、控えめに言っても、そうした考えは認識が甘い。

 実際のところは、プーチン氏はクリミア介入により自らの立場を悪くしたが、
 不器用にも見えるこの作戦は、欧米メディアが冷笑する戦術ミスとは全く違い、
 教科書にも出てくるような、戦略に則った現実的政治の事例だ。

 プーチン氏は、欧米がクリミア占領を認めない場合、戦争しか選択肢がないという「既成事実」を作り出した。
 NATOによるロシアへの軍事攻撃は、ロシアのクリミア撤退と同じぐらい考えにくいことから、プーチン氏が狙うウクライナ国境線の引き直しは現実味を帯びる。

 現段階での唯一の疑問は、ウクライナ政府がクリミアを黙って手放すか、それとも新たな国境内でロシア系住民に報復しようとするかということだ。
 報復に出れば、プーチン氏にクリミア以外のウクライナ侵攻の口実を与え、全面的な内戦に突入するだろう。

 これは投資家にとって、ウクライナ危機がロスチャイルドが言うような買いの機会となるのか、それとも手遅れになる前に株式や他のリスク資産から撤退するのか判断を迫られる問題だ。
 こうした状況では通常、問題は平和的に解決されることが多い。
 つまり、この場合、欧米がロシアのクリミア併合を黙認し、プーチン氏も納得できる新たな挙国一致内閣がキエフで発足するということだ。

 新たな政府は対立解消のために、公用語としてのロシア語の地位を確約し、NATOやEUとウクライナの関係に対してロシアに事実上の拒否権を持たせる必要があるだろう。
 これが最も起こり得るシナリオで、
 ほとんどの投資家や企業が週末までにそうなると推測している。

★. 問題なのは、可能性はかなり少ないものの、もう1つの選択肢であるウクライナ内戦が起きた場合だ。
 もしこれが現実になれば、欧州や世界経済、エネルギー価格、世界の株式市場に与える影響ははるかに大きい。

 金融史で同様の事例を振り返ると、
 地政学上の激しい対立が起きた際、株式投資家は通常、事の結果が判明するはっきりした確証を得るまで待つ。

 例えば、1991年と2003年のイラク戦争では、「銃声が鳴ったら買え」が正解だったが、株価は戦闘の結果がはっきりして初めて上昇した。
 2002年には、戦争の機運が高まる中でS&P500が25%下落。
 状況がはっきり転じたのは米軍がイラク攻撃を開始した2003年3月で、そこから年末までに株価は35%上昇した。

 同じように、1991年には、米国主導の部隊がサダム・フセイン大統領のクウェート侵攻から6カ月後にイラクでの勝利を確実にし、株価は大きく上昇。
 その後4カ月で25%も上げた。

 ウクライナをめぐる対立により近いのは、1962年のキューバ・ミサイル危機かもしれない。
 同年夏、株価は世界的に20%下落。
 ジョン・F・ケネディ米大統領はソ連の指導者フルシチョフに対し、核戦争も辞さないとの態度で交渉し、キューバからミサイルを撤去させた。
 米株市場は1週間のうちに反転し、その後の半年で約30%上昇した。
 しかし、この年の株価反転も、フルシチョフが引き下がり、ケネディが神経戦に勝利したことが確実になってようやく始まったものだ。

 今週の株式市場の動きについて論理的に説明するとすれば、投資家が今、ウクライナで同様の結果を織り込んでいるのだろう。
 ただし、今回の勝者はロシアだ。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
*アナトール・カレツキー氏は受賞歴のあるジャーナリスト兼金融エコノミスト。1976年から英エコノミスト誌、英フィナンシャル・タイムズ紙、英タイムズ紙などで執筆した後、ロイターに所属した。2008年の世界金融危機を経たグローバルな資本主義の変革に関する近著「資本主義4.0」は、BBCの「サミュエル・ジョンソン賞」候補となり、中国語、韓国語、ドイツ語、ポルトガル語に翻訳された。世界の投資機関800社に投資分析を提供する香港のグループ、GaveKalDragonomicsのチーフエコノミストも務める。



「WEDGE Infinity」 2014年03月06日(Thu) 
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3655?page=1

混迷極めるウクライナ 
「ロシア化」のドミノを恐れる欧米
廣瀬陽子・慶應義塾大学准教授インタビュー

――WEDGE Infinityのコラムでも昨年12月にご寄稿いただいていましたが(『ロシアの圧力でEU加盟見送り 大規模化するウクライナのデモ』)、デモが続いていたウクライナでついに政権崩壊に至りました。
 ヤヌコービッチ前大統領は逃亡し、暫定政権が発足。
 ウクライナ国内の動向やロシアと欧米諸国の動きが連日報道されています。

廣瀬:
 ロシアのプロパガンダ作戦もあり、かなり情報が錯綜しているようです。
 「ウクライナではもうたくさんの難民が出ている」「東部の人々がロシアに助けを求めている」など、眉唾ものの情報も多い印象です。
 確かに東部には親ロシアの人々が多いですが、全員がそうだというわけではありません。
 政府系テレビ「ロシア・トゥデイ」の女性キャスターが「ウクライナ問題のロシアメディア報道は嘘だらけ」「欧米メディアも含め虚報ばかり」と批判したことも話題になっています。

――ウクライナ国民はどのような反応なのでしょうか。
 東西分裂の可能性は?

廣瀬:
 拙稿で触れたように、国民の基本的な志向(主に、東側と南部が親ロシア、西側が親欧米)はあるのですが、今はウクライナという国の一体性を守りたいと考えている人が多いと思われます。

 リボフという最も西欧的だといわれている西部の都市の知識人が、自分たちが大事にしないといけないのは国の一体性であり、
 すべての人の多様性を認めなければいけない、という趣旨の書簡を暫定政府に提出しました。
 これは、ロシア語の使用を希望する東部の人たちの文化も守るべき、ということを意味しています。
 欧米寄りの西部、しかも知識人から、このような発言があることを考えても、ウクライナの人たちは分裂を望んではいないのではないでしょうか。

――注目すべきは、政権崩壊後、すかさずクリミア半島に上陸したロシアの行動ではないでしょうか。

廣瀬:
 最も懸念されるのが、このクリミア地域です。
 1954年、ソ連の共産党第一書記だったニキータ・フルシチョフが、クリミアの帰属をロシア領からウクライナ領に変更しました。
 この理由は、公にはロシアとウクライナの友好のためだとされましたが、フルシチョフが幼少期を過ごしたウクライナにクリミアを与えたかったからだという説もあります。
 ともあれ、クリミアには、長いロシア領の歴史からロシア系の住民が多く、今回もプーチンはこの人たちを守るという錦の御旗を掲げているわけですが、これはまさにグルジア紛争の論理とまったく同じです。
 最悪のケースは、クリミアが南オセチアとアブハジアのような未承認国家になってしまうということです。

 また、クリミア半島のセバストポリに黒海艦隊の不凍軍港があることも、ロシアがクリミアを手放せない大きな理由です。
 ヤヌコービッチ前大統領はロシアのこの軍港の使用を、天然ガス価格の割引と引き換えに、2045年まで延長しましたが、その前のユシチェンコ氏は親欧米派で、黒海艦隊の早期撤退を求め、2017年までと決められていた使用期間を延長しないと主張していました。
 今回また親欧米政権が誕生すれば、同様の事態も考えられます。

 ロシアとウクライナは双子のような関係と言っても過言ではなく、そのウクライナが親欧米化し、NATOやEUに入ってしまうという事態は、ロシアとしては絶対に許せないことなのです。

――ロシア国内の反応はどうでしょうか?

廣瀬:
 冒頭でも触れたように、ロシア・トゥデイのキャスターは、ロシアのメディア批判だけでなく明確に「ロシアがやっていることは間違っている」と非難しましたが、国民の反応は人によって様々、というところでしょう。
 ですが、やはりクリミアに関しては前述のような経緯から「もともとロシア」という感覚をもつ人が多いようです。

 また、今回のロシアの行動は、国内政策の一環としての面もあると思われます。
 ヤヌコービッチ前大統領は問題だらけでしたが、それでも「合法的」な選挙を経て大統領になったというれっきとした正当性がありました。
 他方、暫定政権は議会で必要な信任票を獲得しているので既に合法ではありますが、その暫定政権が生まれるに至ったクーデターは「非合法」的な手段であり、それによって政権が崩壊するということがロシアの隣で起きてしまっては、国内への影響が懸念されます。
 ただでさえ、ソチ五輪を前に政敵・ホドロコフスキーやプッシーライオットなど、政権にとっての危険分子を釈放していたため、見せしめとして、ウクライナに対して強く出ている側面もあるでしょう。

 なお、ウクライナの動向を静観した場合の影響については、国内的な懸念だけではなく、もちろん、国外、特に近隣諸国についても同じく危惧を強めていると思います。
 つまり、ウクライナのような流れが、冷戦末期の東欧革命のドミノのように、旧ソ連の他の諸国に広がることを何としても防ぎたいとも思っているはずです。

――西側諸国は一枚岩となって、ロシアを孤立化させようとしていますが、なかなかうまくいっていないようです。

廣瀬:
 残念ながら腰抜け、という印象を受けます。
 もともとオバマ大統領はこれまでの国内外の政策の失敗でボロボロですし、仮にロシアとウクライナで戦争が勃発したときにNATOも絶対に参戦したくない、というのが本音でしょう。
 コソボ紛争を繰り返したくないわけです。
 コソボはセルビアが相手でしたが、今回は大国・ロシアが相手です。
 NATOはもちろんロシアをずっと仮想敵国と見なしてきましたが、実際に戦争となると恐ろしいことに違いはありません。

 EUの中でも、ドイツはパイプライン問題はじめ、様々な権益からロシアには強く出ませんし、フランスも2011年に締結したミストラル級強襲揚陸艦2隻をロシアに売却する契約の中止は検討していない、としています。
 一方、チェコがプラハの春の再現だと厳しく批判するなど、東欧やバルト三国などの旧社会主義国はロシアに対してもっと強く出るべきだと主張しています。
 そして、アメリカはウクライナに近いだけでなく、反ロ的であるポーランドやバルト三国との軍事協力を強化する方針を発表しました。
 このように、西側諸国の中でこそ、東西分裂が起きてしまっています。

 また、ここにきて欧米がウクライナに対して金銭的な援助をしようとしていることにも注目です。

 以前の拙稿でも触れましたが、ウクライナがEUに加盟しなかったのは、EUとIMFが提示した金融支援の条件が厳しすぎたためです。
 今もデフォルト寸前で、とにかく支援を求めるウクライナは、もうロシアに頼るしかありませんでした。
 ロシアから援助される状況で、EUに加盟できるわけありません。
 しかし、ここにきて米国とIMFや、EUもウクライナに対する支援を表明しています。
 それだけ、「ロシア化のドミノ」を恐れているのでしょう。
 それを示すように、アメリカはウクライナの隣国であるモルドバにも金融支援を表明しています。
 つまりモルドバをしっかり固め、ウクライナのような状況が拡散しないように必死になっているわけです。

 ただし、暫定政権が発足したものの国全体を把握できていない状態で、金融支援が今のウクライナの窮状をどこまで救えるかは分かりません。

――これまでも国際社会ではロシアと足並みを揃えることが多かった中国も、今回は曖昧な態度をとっています。

廣瀬:
 中国はやはりウイグルやチベットなどの少数民族問題を抱えていますので、過去にはコソボの分離独立にも反対しました。
 しかし、グルジア紛争で「パンドラの箱」を開けてしまったロシアほど開き直ることはできません。
 グルジアのときも、中国は、グルジアの少数民族に対する非人道的な対応は批判しましたが、南オセチア・アブハジアの国家承認はしませんでした。
 ウクライナ問題でも、ロシアに対して賛成も批判もせず、曖昧な態度をとっています。

――北方領土問題を抱える日本は、どう対応すべきでしょうか。

廣瀬:
 安倍首相はプーチン大統領と信頼関係を構築しようとしていました。
 一方でもちろん日米同盟もありますし、G7のメンバーでもあるため、当然西側諸国と足並みを揃える必要があります。

 安倍政権になってから、日本は米ロ両方とある程度良い関係が築けていたと思いますので、ここは仲介役になるぐらいの存在感を見せてほしいと思います。
 EUと比べても日本は中立的な立場をとれますので、そこをうまくいかして米ロ両方の信頼を得ることを目指してほしいです。



「WEDGE Infinity」 2014年03月11日(Tue) 
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3667

中国メディアは何を報じているか
ウクライナ混乱に中国は高みの見物
軍事技術は吸収し尽くし、兵器開発への影響は限定的

 ウクライナで発生した政変の背景にはロシア寄りかEU寄りかという路線の対立があったが、中国の存在も見逃すわけにはいかない。
 昨年12月にヤヌコビッチ大統領(当時)はデモのさなか中国を訪問して80億ドル分の投資を取り付け、中国側は核兵器を放棄したウクライナ側に安全保障も提供すると確約した矢先である。
 当時既に騒乱状態になりつつあったとはいえ、3カ月も経ずに政権が崩壊すると誰が想像できただろうか。

■ウクライナなしではありえなかった、国防技術の発展

 ウクライナの政変について中国国内ではそれほど大きな関心がもたれているようには見えない。
 もちろん日本でも同様だが、日本と異なる面を探せば、それはウクライナとの関係では軍需産業面についての報道がやはり突出して多いことである。
 それは中国とウクライナ間で兵器開発において密接な関係が続いてきたからに他ならない。

 ウクライナは旧ソ連時代から航空宇宙産業の面で世界に冠たるハイテク技術を持っている。
 中国との軍需産業分野の協力については昨年盛んに試験航海を行った空母「遼寧」がウクライナから購入した「ワリヤーグ」を改造したものであったことは記憶に新しいだろう。

 中国ではここのところ軍備拡張が急速に進み、中でも兵器装備が拡充されている。こ
 うした陰にはロシアやウクライナとの兵器売買や技術協力があったのだ。
 中国の国防技術の発展にはウクライナなしではありえなかったという論評もある。

 とはいえ今回の騒乱に対して中国は現在、高みの見物を決めこんでいる。
 そうした様子を窺わせる記事を二つ紹介したい。
 『環球時報』ネット版に掲載されたウクライナの混乱を中国がどう考えているかが窺える
 「ウクライナの政変は中国の軍需産業に脅威となるか」
いう記事。
 そしてもう一つは中国とウクライナの軍需産業における協力関係の変遷を解説する
 「ウクライナがなければ現在の中国国防の成果はなかったと論評」
という記事である。

* * *

■:記事(1)【2014年2月24 日 環球網(抄訳)】

 政局の混乱は、この国の最も重要な産業の一つ、軍産複合体に大きな衝撃をもたらし、中国やロシア、インド、パキスタン等の国との兵器取引に影響を与えるだろうか。
 中国の専門家は、中国とウクライナの間には長期的な戦略上の利益衝突がないため、ウクライナでどの政党が政権を握っても両国の協力関係には大して影響がないだろうとしている。

 中国とウクライナの軍需産業協力は「ワリヤーグ」(空母)が象徴する大型プロジェクトのほか、艦船、戦車、航空機エンジンなどの分野で非常に密接である。
 ウクライナが中国に輸出する軍事技術は約30種類あり、それは航空母艦、大型艦船等の動力系統、大型輸送機の設計から超音速高級訓練機、戦車エンジン、対空ミサイルや高山山地の活動に適したヘリコプターのエンジンにも及ぶ。

 「ウクライナ特殊技術輸出会社」は北京やイスタンブール、バンコクに代表事務所を置いて武器の輸出入貿易を請け負っている。
 2012年の珠海での航空機ショーでは同社のブースは人気を博した。
 同社は中国側と4隻の大型ホバークラフトの契約を結び、1隻目は既に中国側に引き渡された。(残りを中国側に引き渡すべく港で準備が進められているという報道が3月に入ってからあったばかり:筆者)

★★.「ミニロシア」と呼ばれるウクライナの軍需産業

 ウクライナの軍需産業がこれほど発展している理由は、同国がソ連時代の約35%もの軍需産業能力を引き継いだことが大きい。
 大型の高速戦闘機を除けば、大陸間弾道ミサイルさえも含むあらゆる兵器が注文リストに見られ、軍需産業分野での「ミニロシア」と呼ばれるほどだ。

 1991年に独立してから、ウクライナは世界第6位の武器輸出国となり、50あまりの国と取引関係を持っている。
 ウクライナは2013年にはもともと米国から輸入した武器が主であったタイに121輌の装甲車と50輌の戦車を売りつけた。
 1992年から2013年にはウクライナの軍需輸出額は70億ドルを超えたが、パキスタンや中国がその対象国だった。

 ウクライナの政変がもたらす影響について中国社会科学院の姜毅研究員は、『環球時報』紙のインタビューに答え、ウクライナと中国の間には現実的な利益の衝突はなく、長期的利益や戦略的利益面でも衝突はないと述べている。
 いかなる党派が政権を掌握しても経済発展が必要であり、軍需産業はウクライナが国際競争力を持つ分野なので、ウクライナと中国が提携するプロジェクトに大きな影響はないだろうと予想している。


■:記事(2)【2014年1月15日 環球網(抄訳)】

 2012年は中国とウクライナの国交樹立20周年の年だった。
 両国間は既に戦略的パートナーシップを結んでいるが、記念活動は全く盛り上がっていない。
 4月にウクライナの農業大手ULFと中工国際が40億ドル分の協力契約に調印したことと5月に民間航空機用のエンジンについての全面的協力で契約が結ばれたぐらいだ。

 双方はあたかも軍需産業分野の協力を避けているかのようであり、兵器取引には言及されていない。
 実際には中国はウクライナにとって軍事工業での一番の消費国だが、ウクライナ側といえば、中国が同国にとって一番の軍事技術パートナーとなることを期待していたのだ。

 中国はウクライナから欲しい技術は既にほぼ全て手に入れることができた。
 ただウクライナの軍需産業を知り尽くしたとはいえ、個々の技術分野で両国は依然として協力を続けている。

★★.ソ連時代の友好関係が役立った

 中国とウクライナの軍需産業分野での協力はソ連の解体という特殊な時期に始まった。
 当時、独立国家共同体(CIS)のメンバー各国は政情不安で多くの工場が閉鎖され、多くの専門家は失業し、収入が激減した。
 米国、ドイツ、イスラエル、韓国、シンガポールなどの研究機構は専門家をロシアやウクライナに派遣して好条件で人材リクルートを図った。

 中国にとっては(ソ連が崩壊してからも:筆者)ソ連時代の友好関係が役立っており、ソ連に留学経験のある学者が友人に連絡を取ることでトップクラスの専門家たちが中国にやって来るようになった。
 彼らの多くは中ソ友好を重視し、高い経済的要求もせず、技術や材料を惜しげもなく提供した。

 中国政府はソ連の軍需産業に従事した人材をリクルートすべく「二つを受け入れるプロジェクト(双引工程)」を起動させて独立国家共同体の人材と技術の導入に着手した。
 当時の李鵬総理は、わが国にとって(崩壊したソ連からの人材獲得は:筆者)千載一遇のチャンスであり、これを見逃す手はないと指摘している。
 中国は2002年までの10年間にロシアや独立国家共同体から専門家1万人と2000件超の技術を獲得した。

 2008年に北京オリンピックを開催することが決まると契約数も増えた。
 欧米の安全保障専門家の分析によると、このころ「中華イージス」艦の設計に着手した。

 中国のミサイルが赤外線誘導からレーダー誘導まで飛躍したのはウクライナによる支援が欠かせなかった。
 中国はウクライナのレーダーミサイルを改良し、多目標攻撃能力と全天候作成能力を備えた中距離ミサイルを開発した。

 航空業界では2008年に中国航空工業第二集団とアントノフ社が北京に研究開発センターを設立して輸送機の研究開発に着手した。 
 2011年に陳炳徳総参謀長がウクライナを訪問し、軍事技術協力のメモランダムに調印した。

* * *

■【解説】

 ウクライナの騒乱に中国が高みの見物を決めこんでいる原因の一つには誰が政権を取っても欧州とロシアの狭間で微妙な舵取りを求められるウクライナにとって中国が大切であることはどの政権でも変わらないという自信があるようだ。
 そしてもう一つは本記事で紹介したようにウクライナからはある程度の技術はほとんど吸収したので今後の兵器開発には大きな影響がないという安堵ともいえるような感覚があるのかもしれない。

■現状は「様子見」が現実的か

 もちろん中国にとってウクライナとの関係が軍需産業ばかりの側面で語られていいのか、という疑問はあろう。
 「高みの見物」を決め込んでいるのは、ロシアやEU、米国との関係を壊したくないという配慮もあるだろうし、現状では様子見するしかないという現実的考えがあるかもしれない。
 他国への「内政不干渉」原則を掲げている道義的側面もある。

 また中国にとって体制維持が重要であるから、北アフリカ・中東の政変がジャスミン革命と称されて中国への波及の有無が注目された時のようなことは回避して中国に政変が波及することは何としてでも避けるためにロシアと米国、EUがせめぎあうような地域紛争には触れないのが無難だという考えがあるかもしれない。

 天然ガスや小麦やトウモロコシといった穀物取引も現実的問題として存在するが、穀物取引についてはここ数年本格化し始めたばかりで中国の食糧やエネルギー安全保障を揺るがすほどではない。

 ウクライナとの協力関係がどのように推移するか今後、引き続き注目する必要があるが、今月末に予定されている習近平主席による欧州(オランダ、ドイツ、フランス)訪問でも直々に何らかの態度表明がされるかもしれない。

弓野正宏(ゆみの・まさひろ) 早稲田大学現代中国研究所招聘研究員
1972年生まれ。北京大学大学院修士課程修了、中国社会科学院アメリカ研究所博士課程中退、早稲田大学大学院博士後期課程単位取得退学。早稲田大学現代中国研究所助手、同客員講師を経て同招聘研究員。専門は現代中国政治。中国の国防体制を中心とした論文あり。



2014.03.14(金)  Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40176

ウクライナ危機で中国が立場を示さない理由
(2014年3月13日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 中国の李克強首相が13日に年次記者会見を開く時に、誰もが満足のいくように答える可能性がまずない重要な質問が1つあった。
 ウクライナとクリミアでのロシアの最近の行動について、中国は本当はどう思っているのか、という質問だ。

 中国政府はこの問題で非常に困った状況にある。
 というのも、過去数週間に展開した事態は、権威主義的な指導部が抱く最悪の悪夢をすべて丸めて、大きなまずい餃子にしたようなものだからだ。

 民衆蜂起は中国政府にとって受け入れ難いものだが、それを言えば、他国による主権国家の領土占領も同様だ。
 特に少数民族とその自決権を保護するという名目で占領が行われる時はなおさら
――中国西部地域のテュルク語族のイスラム教徒やチベット人のことを考えてみればいい。

■ミスユニバースのように平和を求める姿勢

 ウクライナの危機に対する中国の反応は、国際関係に関するミスユニバース美人コンテストの考え方に沿っている。
 中国は世界平和を望んでおり、誰もが仲良くできることを期待しているというわけだ。

 ロシア政府、米国政府、外国メディアが紛争の一方につくようどれだけ強く中国に迫ろうとも、
 中国政府がこれまで進んで言うことはせいぜい、すべての当事者は「冷静さを保ち、自制」し、「平和的解決」に至るべきだというものだった。

 一方、中国外相は3月8日に行った初の年次記者会見を、中ロ関係はかつてないほど良好だと宣言する場に選んだ。
 では、ウクライナ危機に対する中国の本当の立場とはどういうものなのだろうか?

 地名を常にきちんと発音できるとは限らないような、世界の遠く離れた場所について自国指導者が詳しく説明することに慣れている西側の多くの人にとっては奇妙に思えるかもしれないが、世界第2位の経済大国で超大国の座を競う最有力候補の中国は、ウクライナや国際報道の見出しを飾る他の多くの問題について特定の立場を持たないのだ。

 政府のある上級戦略アドバイザーは内々の会話で次のように表現していた。
 「ロシアは我々の友人だが、これはロシアによくある攻撃的行動だ。
 我々はこの問題について目立たないようにし、事態がどう展開するか静観するつもりであり、最後には我々はあらゆる国と友人になるだろう」

 これは、むしろルクセンブルクやニュージーランドのような国が紛争に対して取る政策のように見えるかもしれないが、
 中国は、明らかに他国の勢力圏内にある地域で影響力を行使し始める準備がまだ整っていないのだ。

 対照的に自国の周辺地域では、中国は、はっきりとかつての受け身の姿勢から脱皮し、自国の外交政策を「積極的」だと公然と表現している。

 その姿勢は、東シナ海に浮かぶ係争中の島嶼の上空を含む空域に「防空識別圏」を最近宣言したことから、失踪したマレーシア航空MH370便の捜索で海軍による過去最大の救援活動を展開中であることまで、中国が最近行っているあらゆることで明らかだ。

■東アジア以外では高尚な立場

 東アジア以外では、少なくとも自国の利害が直接関与しない時は、国際情勢における中国の立場はいろいろな意味で高尚だ。

 一言で言えば、中国は、不干渉、対話、交渉、紛争の平和的解決、主権と領土の一体性に対する尊重、規模を問わず、あらゆる国の発言権を支持している。

 中国の外交官たちは、かなり合理的に、外国勢力が他国の内部抗争に介入した時は、ほぼ決まって状況を悪化させると主張する。
 ウクライナの場合、中国は、確実に欧州やロシア、さらには米国に比べても、紛争や結果に対して直接的な利害を持たない。

 確かに中国政府は、ウクライナからのホバークラフトの引き渡しを待っているし、中国は時々、自国軍のためにキエフにジェットエンジンを発注したり、ウクライナでいくつか農業プロジェクトに投資したりしている。これらは到底、核心的利益を構成するものではない。

 「世界が中国の考えを聞きたがる場面がどんどん増えている」。
 ある高官は先週、本紙(英フィナンシャル・タイムズ)に対してこう語った。
 「だが、我々の影響力が大きくなるにつれ、我々はどちらか一方の側についたり、強い声明を出すことになおさら気が進まなくなる。
 なぜなら、我々が重要になればなるほど、我々の影響力が事態を複雑にし、悪化させる可能性が大きくなることを理解しているからだ」

By Jamil Anderlini in Beijing
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レコードチャイナ 配信日時:2014年3月15日 12時2分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=84957&type=0

ウクライナ危機で中国が漁夫の利、
棚ぼた式にエネルギー・軍事技術・ロシア市場を獲得―中国メディア

 2014年3月14日、新華網は記事
 「中国がウクライナ危機の勝者にとの指摘=投資の穴埋めてエネルギー技術獲得」
を掲載した。

 ロシア紙ニェザヴィーシマヤ・ガゼータは13日、
 ウクライナ危機の勝者は中国になる
との見方を示した。
 ウクライナのクリミア共和国の住民投票によるロシアへの編入の動きが進んでいるが、実現すれば欧米とロシアの亀裂は決定的なものとなる。
 欧米企業のロシアからの離脱が予想されるが、中国企業が進出する好機だと分析している。
 また、中国はエネルギーを欲しており、ロシアの天然ガスの有力な輸出先となる。

 米誌ナショナル・インタレスト電子版も12日付で「ウクライナ危機の勝者は中国」との記事を配信した。
 シリア情勢しかり、オバマ政権は外交の失敗に苦しめられているが、ウクライナ情勢は米国にとってさらなる打撃になると分析した。

 米国にとって重要なのは中国対策、アジアへの帰還戦略を成功させることだが、ウクライナ危機はその力が削がれることを意味する。 
 クリミアよりもアジア太平洋の方がよほど重要なのにもかかわらず、だ。

 また、ウクライナ危機は中露を急接近させるという問題もある。
 欧米がロシア批判を強める中、中国はやすやすと対ロシア関係の強化に成功。
 軍事技術の供与などの果実を得るだろうと予測している。


レコードチャイナ 配信日時:2014年3月17日 21時46分
https://www.youtube.com/watch?v=yRLiLoYLK90

ウクライナ危機、どんな結論でも勝つのは中国―中国紙

 2014年3月17日、環球時報は、ウクライナ南部クリミア自治共和国のロシアへの編入の是非を問う住民投票など一連の問題で、「どんな結論が出ようと勝つのは中国」と指摘した。

 ロシアによるウクライナへの軍事介入について、中国は今のところ沈黙を守っている。
 専門家は、ロシアがウクライナへの侵入に踏み切れば、北大西洋条約機構(NATO)加盟国は新たな冷戦状態に入り、米国政府のいわゆる「アジア回帰戦略」にダメージを与える可能性があると予測する。

 欧米諸国によるロシアへの経済制裁が弱まれば、中国は独特の影響力と立場を持つことになる。
 なぜなら中国はロシア制裁案に関与しないからだ。
 これにより、ロシアと中国は欧州連合(EU)の提示額より安い価格での天然ガス輸出契約に合意する可能性がある。

 欧州対外関係委員会アジア・中国担当の顧徳明(グー・ダーミン)氏は「仮に西側諸国が制裁に踏み切れば、中国がその立場を取って代わり、現実的な経済利益を得るだろう。
 エネルギー分野におけるロシアの中国依存は進行する」と指摘している。





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