●2011年、テスト飛行中に通信途絶したHTV2(写真:DARPA/ロイター/アフロ )
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WEDGE Infinity 2014年02月17日(Mon)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3604?page=1
極超音速飛翔体の試射に成功した中国
問われる集団的自衛権のあり方
米国ニュースサイトのワシントン・フリービーコンが1月13日、米国務省当局者からの情報として報じたところによると、1月9日、中国の極超音速滑空実験機(hypersonic glide vehicle)「WU-14」が大陸間弾道ミサイルの弾頭に搭載されて発射され、その後、滑空してニア・スペース(準宇宙)をマッハ10で機動したという。
これに対して、中国国防部は15日、核弾頭の搭載が可能な極超音速滑空ミサイルの試射を行ったことを明らかにした。
同時に、これは科学的な試験であり、いかなる国を狙ったものでもないという説明を加えている。
なぜ「極超音速飛翔体」の試験が、米国メディアの関心を引いたのか。
そして、なぜ中国国防部は、わざわざ「いかなる国を狙ったものでもない」と付け加えなければならなかったのか。
それは、極超音速飛翔体が、国際社会の安全保障環境をさらに複雑にする戦略兵器となる可能性があるからだ。
■核に代わる抑止力に?
極超音速飛翔体は、他国に対して抑止効果を有する。
「核なき世界」構想を進めるオバマ政権にとっては、核廃絶の切り札とも言われている。
だからこそ、米国は極超音速飛翔体の開発を進め、実験を行ってきた。
ワシントン・フリー・ビーコンによれば、飛行速度がマッハ10を超え、格弾頭が搭載可能な極超音速飛翔体の試射に成功したのは、これまで米国のみだった。
ここに、中国が加わったのである。
オバマ政権は「核なき世界」を実現するため、核軍縮の動きを活発化させているが、一方で、米国の抑止力は維持しなければならない。
そこで再び注目されるようになったのが、
CPGS(Conventional Prompt Global Strike:通常兵器型即時全地球攻撃)
である。
PGSは、元々、冷戦終結後に前方展開基地を削減したい米国が考え始めた構想である。
前方展開基地を削減した後も、
米国本土から世界中のいかなる地域に対しても、1時間以内に攻撃できるようにするというものだ。
同盟国に対して米軍の支援を保証するためである。
そのためには、使用のハードルが極めて高い(抑止以外に実際の使い道はない)核兵器ではなく、通常兵器を使用する必要があった。
2003年、ジョージ W. ブッシュ政権下で、米国防総省は、新たな任務として、PGSを提唱している。
■弾薬を搭載せず、目標をピンポイントに破壊
米国の極超音速飛翔体の研究開発は、空軍とDARPA(Defense Advanced Research Projects Agency:国防高等研究計画局)、さらに軍需産業が関わっている。
X-51 Wave RiderやFalcon HTV2がその代表格だ。
それぞれ一応の試験飛行を終えている。
極超音速飛翔体は、米国の構想では、通常兵器として使用される。
弾頭に爆薬さえ搭載しない。
飛翔体の質量と速度だけで、目標を破壊するのだ。
これでも破壊力は凄まじいが、破壊する範囲は極限できる。
大量破壊兵器ではないということが、使用のハードルを低くする。
また、飛行を制御し滑空することから、ただ落下するだけの弾道ミサイルよりも、はるかに命中精度を高くできる。
攻撃目標周辺の住民等の巻き添えを最小限にできるということだ。
さらに、滑空能力を有することで、飛行ルートを選択でき、低高度を飛行できる。
こうなると、
現存のBMD(Ballistic Missile Defense:弾道ミサイル防衛)システムでは撃墜することが極めて困難
である。
誰にも撃墜できず、1時間以内に世界のどこに存在する目標であっても、必ず破壊する兵器が開発されているのだ。
しかも、大量破壊兵器ではなく、配備されれば実際に使用される可能性がある。
オバマ政権は、極超音速飛翔体を用いて核廃絶を進める意図があるかもしれないが、現実的には、核兵器と通常兵器の間を埋める性格のものになると考えられる。
しかし、こうした兵器が各国に与える心理的影響は計り知れない。
極超音速飛翔体の抑止力は高く、戦略性の高い兵器であると言える。
これまで、米国のほかに、ロシア、インド等が研究開発していることは報じられていた。
ここに、中国の試験成功のニュースが飛び込んできたのだ。
極超音速飛翔体を兵器として実用化した国は、新たな抑止力を手に入れることになる。
国際社会の戦略バランスが変わる可能性があるということだ。
1月23日、米国防総省での記者ブリーフィングで、ロックリア太平洋軍司令官が
「先端技術を用いたシステムが安全保障環境を複雑にしている」
と述べたのは、そのような意味だろう。
米国が試験に成功し、中国がこれに続いた。
既存の核保有国は、現在の地位を失わないために、極超音速飛翔体の研究開発を止める訳にはいかないだろう。
1月28日には、米国防総省のケンドール国防次官が下院軍事委員会で、
「米国軍の技術的優位性は、アジア太平洋地域を中心に、過去数十年で経験したことのない挑戦を受けている」
と指摘した。
さらに
「技術面での優位性は保障されていない。
これは将来の問題ではなく、いま現在の問題だ」
と述べている。
現有の通常兵器では、米中間にまだ大きな技術的な開きがあることから、この発言は、極超音速飛翔体について述べたものと考えられる。
■撃墜に有望なのはイージス艦
一方で米国は、極超音速飛翔体による米国本土への攻撃を、黙って許すつもりはない。
極超音速飛翔体を撃墜するため、米軍は海上自衛隊とともに新たな試みを始めていると聞く。
現在の米軍では、艦艇、航空機及び車両は、ネットワークの中の一つ一つの端末に過ぎないという。
米軍が運用する全てのビークルを、衛星等も用いて結ぶことによってネットワークを形成し、情報をリアルタイムで共有するとともに、ネットワーク内の最適な武器を選択し使用する。
これを、極超音速で滑空する飛翔体を撃墜するために進化させようというのだ。
最も有望なのがイージス艦である。
日米のイージス艦をつないでネットワークを形成する。
いずれかのイージス艦が飛翔体を探知する。
低空を極超音速で滑空していれば、イージス艦といえども、探知した時にはすでに攻撃には手遅れである。
しかし、探知情報はリアルタイムで全てのイージス艦に共有される。
次に別のイージス艦が探知すれば、より正確な飛翔体の飛行諸元を得ることができる。
この飛行諸元を用いてネットワークが判断し、攻撃に最適なイージス艦を選び、攻撃諸元を与えて自動的に攻撃させる。
探知が多ければ多いほど、攻撃精度は増すだろう。
この探知から攻撃までの一連の行動は、極短時間の内に起こる。
ここに、人間が判断する余地はない。
ネットワークの決定によって攻撃するのだ。
■集団的自衛権の議論をはるかに超えた次元に
SF映画の近未来の戦争のようだが、実際に開発が進んでいる。
人の意思決定を待ったのでは対応できない兵器の登場は、日米同盟の在り方をも変えるだろう。
海上自衛隊のイージス艦は、米軍のネットワークに組み込まれ、そのネットワークの意志によって、自動的に攻撃する可能性もあるのだ。
一つ一つの事象に対して自衛権を行使できるのかどうかを判断している時間はない。
集団的自衛権の議論をはるかに超えた次元の対処が要求されることになる。
極超音速飛翔体は、実戦配備されれば、国際社会における抑止のバランスに変化をもたらし、各国の安全保障協力関係にも変化をもたらす可能性がある兵器である。
こうした意味から、極超音速飛翔体は、国際関係におけるゲームチェンジャーとなり得るのだ。
自衛隊は、平時にも軍隊として行動できなければ、これに対処できない。
有事認定を待つなどと悠長なことは言っていられない。
日本が平時に自衛権を行使するのかどうか、国民が議論しなければならない。
小原凡司(おはら・ぼんじ) 東京財団研究員・元駐中国防衛駐在官
1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’sを経て、13年1月より現職。
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ロイター 2014年 01月 16日 13:53 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYEA0F03R20140116
中国国防省、極超音速滑空ミサイルの試射認める
[北京 15日 ロイター] -
中国国防省は15日、核弾頭の搭載が可能な極超音速滑空ミサイルの試射を行ったと明らかにした上で、科学的な試験であり、いかなる国を狙ったものでもないと説明した。
同省はロイターの質問に返答したファクスの中で
「中国が自国の領域で科学研究試験を計画通り実施するのは正常な行為だ」
と説明。
「これらの試験はいかなる国や特定の目標を狙ったものではない」
と指摘した。
中国国内で先週、極超音速滑空体(HGV)が音速の10倍のスピードで飛行するのが確認された、とする米ニュースサイト「ワシントン・フリー・ビーコン」の報道を認めた格好だ。
同サイトによると、飛行速度がマッハ10(時速1万2359キロ)を超え、核弾頭が搭載可能な極超音速飛翔体の試射に成功したのは米国に続いて2カ国目。
米国防総省のジェフリー・プール報道官は、試射を認識していると指摘。
「しかし、外国の兵器システムに関する諜報活動や評価についてはコメントしない。
われわれは、判断ミスを避けるため、防衛関連投資や防衛方針について、透明性を高めるよう(中国に)求めている」
と述べた。
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