●中国の都市化は「新型都市化」と言われるように、今までの都市化ではない、新たな都市化を目指しています。この新型の含意について考えてみます。
『
サーチナニュース 2014-1-15 18:51http://news.searchina.net/id/1521146
「見てくれ」ばかりのエコ都市建設で自然を破壊=中国
中国では、「エコ都市」を実現するとして、人造湖や芝生などの建設に力が入れる都市が多い。
しかし、水不足の都市を大量に使う施設を作るなど、何も考えずに「見てくれ」だけを整えようとするので、かえって環境を破壊している例があるという。
人民日報、中国新聞社などが報じた。
記事が「北西地区のある都市」として紹介した例によれば、同市は「山と水の田園都市」を築くとして、市街地を流れる河岸に緑地や公園、健康広場などを設けた。
市中心部には川の水を利用する人工水景を作った。
市民の1人によると、市街地を流れる川には水がたっぷりとある。
夜になれば照明がともる。
その反射で、川面には光があふれる。
確かに、河岸を散歩すると気持ちがよい。
ところが、市街地の下流で川は急に細る。
干上がってしまった川床も目立つ。
北京大学景観設計学研究院の李迪華副院長によると、中国北部では水が不足している都市が多いが、そのような都市が人口湖を作る場合、湖底に防水処置をほどこす。
都市部に人口湖を作れば、河川を流れる水がさらに減少し、湖底の防水処置のために、地下水の源がその分、絶たれることになる。
東北師範大学地理科学学院の呉正方教授は、吉林省長春清が市内に芝生広場を作ったことを批判。
現地の気象条件などにより、6月までは芝の成長期で、9月以降は枯れ始める。
芝生広場を市民が利用できるのは7、8月のわずか2カ月だ。
しかし夏の日中は暑すぎて、陽光が照りつける芝生広場は「市民憩いの場」にはならない。
しかも長春では春と秋に強い風が吹くことが多い。
芝生広場はひどい土ぼこりの発生源になっている。
中国北部では長春市以外にも、芝生広場を作る都市があるが、役に立たず、しかも水を大量に浪費しているとの批判の声が出る場合もある。
「あとさきを考えないエコ都市づくり」の一例としては、街路樹の選定もある。
東北地方の都市がエンジュを植える場合がある。
北京などには見事なエンジュの街路樹があるが、エンジュが北京よりも寒い東北地方の冬を越すのは難しい。
例年より厳しく冷え込んだ場合、春までにはエンジュがほぼ全滅という事態もあるという。
李副院長は、自然条件を考慮しない都市整備を「偽のエコ」と批判。
「広すぎる広場や水絡みの施設、実態にそぐわない緑地率の設定、人々が使いこなせない超大型の文化施設や総合施設は、間違った都市概念にもとづく」
と指摘し、行政の責任者による、
「面子(メンツ)にこだわり、業績を示そうとするだけのプロジェクト」
と喝破した。
李副院長は、都市建設にあたっては「人が何を必要としているか」から出発して考えねばならないと主張。
例として、通勤に便利な交通網づくりを挙げ、「エコ都市づくりとは関係ないように見えるかもしれないが、実際にはマイカー通勤が減れば、エネルギー資源を大いに節約し、環境汚染を低減し、生活コストも引き下げることになる」と説明。
エコ都市づくりは、「見てくれよりも実質」と主張した。
』
『
レコードチャイナ 配信日時:2014年1月16日 14時14分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=81036&type=0
中国が取り組む「以人為本」の都市化、計画経済が残した宿題の解消へ
■人間本位の経済開発
この新型が意味するのは胡錦濤政権では「以人為本(人を以って本となす)」と呼ばれていた、
人間本位の経済開発です。
新型都市化は「人を中心とした都市化」という意味を含んでいます。
なぜ人に注目するのでしょうか。
それは中国の都市化は「都市建設だと理解されてきた」(関志雄(2013)『中国 二つの罠』日本経済新聞社,p.72)ために、都市で働き生活する人々の生活向上が考えられてきませんでした。
計画経済時代には農村から労働を調達し都市建設と称して国有企業建設やそれにまつわるアパート群の建設が行われてきました。
しかし都市建設が一段落すると農民は農村に帰されたのです。
実は、現在でも似たような状況が続いています。
いわゆる都市部で経済建設に従事する農民工です。
都市の常住人口は6億6570万人です(2010年)。
しかしそのうち半分近くの3億960万人が農業戸籍のままです(2010年人口センサス)。
農業戸籍のまま都市に住んでいる農民たちは都市部で差別的待遇にあっています。
これまで農民は都市に住むためには「暫定居留証」や「就業許可証」がないと住むことができません。
この条件を満たさない農民は強制的に農村に追い返されます。
日本でいう不法滞在扱いです。
農民は都市建設を支えるものの、その目的を達成すればあくまで帰村してもらうという対象だったのです。
「新型都市化」は都市部に住む農民の定住化、都市住民化を目指します。
ただ都市建設としての労働者ではなく、都市に住む住民としてもともと都市に住んでいる人々と同じ待遇になるということが必要なのです。
■新型都市化を阻む制度的障害
戸籍制度を撤廃して農民を都市住民にして、平等な教育、社会保障を都市に住む農民に提供すればいいじゃないかと。
なぜさっさとやらないのかと。
実はこの裏には中国の計画経済時代から持ち越している大きな制度的な障害が複雑に絡み合っているために戸籍制度を撤廃すれば簡単に問題解決というわけにはいかないのです。
1]:戸籍
農業戸籍と非農業戸籍(都市戸籍)の分離は有名です。
でも戸籍の改革は進んでいます。
とくに2011年からの第12次五カ年計画以降は,大都市(北京,上海,広州)などは除いて基本的に条件の揃っている農民には都市戸籍を与えるとしています(「中国の戸籍制度改革が進!?」)。
都市部で定住場所があり、ある程度の収入と職がある農民工は都市住民になることが可能になりました。
もっとも制限が緩んだといっても教育の低い農民が都市で安定的な仕事を持つことは難しいですし、職の安定しない農民が安定した居住場所を持つことも難しいです。
2]:土地
農村の土地は「集団所有制」です。
農村の郷鎮政府が所有する土地です。
農民は請負権という農地を耕す権利を持っていますが、所有権はありません。
また農地を耕す権利、請負権も30年のみです
(都市部の住宅地は70年、工業用地は50年、商業用地は40年の使用権が認められている)。
農民が都市部で戸籍を転換するとこの請負権を消失します。
農民にとって土地は都市部で失業した場合の社会保障になっていますので、そう簡単に都市戸籍を得るわけにはいきません。
この請負権も第12次五カ年計画で転売等が認められるようになりました。
また2013年11月の三中全会では農民の宅地の所有権を認め、それを売買することを可能にするとしています。
これは大きな改革です。
農民は請負権と宅地所有権を売ることによってキャピタルゲインを得ることが可能だからです。
これにより社会保障(年金や失業保険)の原資にすることが可能ですし、商売を始める元手にもなります。
3]:定住環境
最後は都市部の定住環境です。
農民は都市戸籍がないという理由で都市住民と同じような待遇を得ることができません。
例えば、労働政策研究・研修機構は国家統計局の陝西チームが行った調査の結果を紹介しています。
それによると、陝西省農民工の都市部医療保険への加入率は4.2%、労災保険への加入率は13.7%です。
この地域では義務教育に戸籍制限を設けていないそうですが、都市部の公立学校に通学している農民工の子どもは宝鶏市では64.5%,商洛市では89%です。
格差は居住状況でも見られます。都市部に持ち家を購入している農民工はわずか0.4%で、80.9%は民間の賃貸住宅または社員寮に住んでいるのです。
(独立行政法人労働政策研究・研修機構2013年11月)
■絡み合った複数の難題
このように新型都市化を妨げているのは、戸籍・土地・社会保障など中国が計画経済から持ち越してきた制度的な障害です。
これらが相互に絡み合っているために一つを解決すれば全て解決できるというわけにはいきません。
戸籍を緩和しても、農民にとっては土地が奪われるだけですし、長時間で危険なところで働かされるという就業問題が解決するわけではありません。
土地の請負権を売買できる、宅地所有権を売買できるといっても、今まで集団所有制であった土地の権利を確定することは他の農民との衝突を生むとともに、郷鎮政府の幹部にとって悩ましい問題となります。
都市で働いている農民の就業、教育、住宅環境は差別的です。
じゃあこの差別を解消するために、戸籍を緩和しようとしても話は最初に戻ります。
つまり問題はそれぞれが複雑に絡み合っているので、一筋縄で解決できるものとはなりません。
「新型都市化」は、今までの「移行経済」状態で積み残されている「計画経済」の制度の部分を本当になくしていく、いわゆる本当の「改革」だと言えるのです。
▼筆者プロフィール:岡本信広
大東文化大学国際関係学部教授。1967年徳島県生まれ。著書に『中国-奇跡的発展の「原則」』アジア経済研究所、『中国の地域経済-空間構造と相互依存』日本評論社がある。
』
【劣化する人心と国土】
_